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1話
山上は、びくっと肩を揺らした。
「推測でしかないですけど…先ずは篠田さん、本物の名刺頂けますか?」
「山上さん、どうします?」
山上は知らん顔をして、タバコに火をつけてゆっくり煙を吐き出した。
「お前が飯に誘ったんだろうが」
「そうでしたね、本物は…ジャケットの内ポケットなんです。左胸の所です、出して頂けますか?」
むつは、借りているジャケットの左側を持ち上げると内ポケットからシルバーの名刺入れを取り出した。
「その中からどうぞ、お取りください」
言われるがままに名刺入れを開けると、1枚取り出した。
「警視…警視庁の警視さんでしたか」
「何で偽の名刺だと思われたんですか?」
「夏場なのにジャケット着てネクタイまでしてる方が、名刺入れじゃなく胸ポケットから1枚だけ出されたので最初から用意されてた物と思いまして」
「それだけですか?」
「えぇ、うちの山上と宮前さんとは顔見知りの様でしたから名刺はいりませんよね?山上はやたらと私に話に参加するよう言ってましたし…騙すようかと」