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7話
むつは言うか否か悩んだ。そして、缶をテーブルに置くと冬四郎の方を向くように座り直した。
「付喪神だった女神像から首飾りを取ってきたの。それをあそこに、置いてきたの。以前、人を見守っていたように、これからは、人も亡くなった人も見守ってくれるようにって」
「そうか。…本当はその付喪神を救えたらって思ったんだろ?」
冬四郎もビールを置くと、むつの方を向いた。向き合うと、むつは視線を冬四郎から外した。そして、何も言わず首を傾げて少しだけ笑った。
何となく気まずい雰囲気に冬四郎は、かける言葉も見付けられず、ビールを飲んだ。むつは、もう会話は終わったとばかりに海を見ている。
「なぁ、あのさ」
「ん?」
むつな、顔だけを冬四郎の方に向けた。
「今日の夜、その…花火しないか?一緒に」
ちょっとだけむつが、驚いた顔をして口を開けかけた時。
「ダメです」
祐斗がビニールボートを脇にかかえるようにして、冬四郎の後ろに立っていた。




