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6話
むつはポケットから出した、首飾りを海神の所に持って行こうかとも思った。だが、真っ直ぐに供養塔の所に持っていった。
そっと札を剥がして、扉を開けた。積み上げてある石にかかっている、しめ縄の上から首飾りをかけた。そして、静かに手を合わせた。
札を貼った時に来た時と違って嫌な感じは、全くしなかった。ただ、静かにそこにあるだけだった。
海で亡くなった人たちと共に、ここでまた海に出る人たちの安全を願ってくれるだろう。むつはそう思った。
そっと扉を閉めて、屋根にかかっている埃を手で払った。そして、もう1度手を合わせてからむつは、みんなの所に戻ろうと洞窟から出ていく。
洞窟から出ると、すでに太陽がのぼってきていて、じりじりと暑くなってきている。海も太陽の光を浴びてきらきらとしていて、とてもきれいだった。
むつは靴を脱いでズボンをまくると、足を海水につけながら、ぱしゃぱしゃと岩場を歩いて行った。




