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6話
むつは颯介と背中合わせになり、霊たちを払い除けながら手摺の方に、じりじりと寄っていく。
「他の船に飛び移ろう」
「祐斗君は?」
「すでに離脱させてある。で、そこらへんの船の燃料タンクに穴を開けさせてるから、後は火をつける」
「派手なやり方だね」
颯介が寄ってくる霊を殴り、蹴り、側に寄らないようにしてくれてるので、むつは先に手摺を乗り越えた。
むつは蟹のように横歩きをして、船首に向かっていく。付喪神になった、フィギュアヘッドの首から首飾りを引きちぎった。
それを無くさないように、手に巻き付けて宝石をぎゅっと握った。冷たい石が、かすかな寂しさをむつに与えた。
「さようなら、だ。悪いとは思うよ…けど罪のない人をこれ以上、奪わせるわけにはいかないからね…これは、わたしが貰っていく。あなたが存在していた証拠にね」
『大切にしてくれる?』
「勿論…けど、やっぱり海の近くが良ければ大切にしてくれる方に預けるけど」
『そうね。海からは離れたくないわ』
「分かった。あのさ…」




