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6話
『だとしても、ただ沈めるだけが長く頑張ったわたしへの仕打ち?わたしはここで、航海の安全を願ってきた。どんなに波が、風が強くても…今度はわたしが、わたしの為に航海をしたい』
「それと人を傷付けるのは別問題でしょ?あなたは…」
むつはその続きを言わなかった。人の手で人の為に作られた物なのだとは、もはや言えないからだ。言ったら傷付けるだけ、という事も分かっていた。
『いいの、もういい。この船が焼けてまた海に沈むとしても、また1から作れば。ずっと、ずっと暗い海の底に居た時よりましだもの…』
「やっぱ話すだけ無駄なんだね」
ちらっと後ろを確認したむつは、ライターの火をつけて、女神像を照らしてみた。無機質に冷たく輝いているようにしか、見えない。
「素敵な首飾りだね…これ」
首飾りだけは彫刻ではなく、本物の宝石だった。むつはそれに軽く触れてみた。
「なるほど、ね」
パーティーホールで出会ったであろう、人々がむつのすぐ後ろまで来ていた。




