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6話
かなりボートまでの高さはあったが、無事に降りれたようだ。むつは手摺に寄りかかって、祐斗が遠ざかっていくのを見送った。
タバコをくわえて火をつけて、煙を吐き出した。火種でライターをかざしてみると、オイルもあまり残っていない。
灰を甲板から下に向かって落とし、むつはゆっくり歩いて、船首の方に向かった。船内に降りる階段からは、黒い煙が出て焦げ臭いにおいがしている。
先端まで来ると、むつはしゃがみこんだ。少しだけ悩んだあげく、膝をつき落ちないように船首付近を覗きこんだ。
「あぁ、やっぱりあった…フィギュアヘッド。これは女神かな?」
むつはそっと装飾彫刻の女神像を撫でた。古い船には似つかわしくない程、真っ白できれいだった。
「付喪神だね」




