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1話
「むつさんは、気が利くし良いお嫁さんになりそうですよね」
篠田は相変わらず、にこにことむつの方を見ている。むつの方も慣れてきたのか、愛想笑いを浮かべスルーしていた。
山上の隣に座っているむつは、向かいに居る冬四郎に目を向ける事なく氷で冷えた水を飲んだ。
冬四郎の隣に座っている篠田は、山上と目を合わせてから、むつと冬四郎を交互に見やった。山上は、処置なしとでも言いたげに軽く頭を左右にふった。
山上も水を飲むと、メニュー表をパラパラとめくり始めた。
「で、むつのオススメは?」
「わりと何でも美味しいよ。昼間だから呑めないのが残念なくらいで」
「呑みたい気分なのか?」
「ちょーっとだけ」
むつがにやりと笑うと、山上は笑いを堪えるような顔のまま、冬四郎の方を見た。冬四郎は、むすっとしている。篠田はそんな状況を楽しんでいるかのように、何も言わずメニュー表を開いた。