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6話
声は確かに篠田の物だった。目の前に居るのもさっきまで一緒に居た、篠田だ。だが、その身体は透けていて向こう側が見えていた。
『むつさん、湯野さんも…わたしは死んだのでしょうか?』
耳ではなく、頭に直接響くような少しくぐもった、遠くから聞こえるような声だった。
篠田の質問に対して、祐斗は困ったような顔をしている。むつと颯介も何とも言えず、困っている。
『何かに捕らえられて海に引きずりこまれ、気付いたらとろっとした水の中に沈んで行ったんですよね』
「篠田さん…今どこから来たか分かりますか?」
むつが声をかけてみると、篠田は首を振っている。
『聞こえない』
「篠田さんがどこから来たのかってむつさんは聞いたんですよ」
『どこ…?船の上ですよ』
「その船はどこに?」
篠田は液体の満たされている池の方を指差した。
『何で谷代君の声しか聞こえないんでしょうね』
篠田は少し悲しそうだった。
 




