1話
むつと冬四郎は無言のまま、山上と篠田を待っていた。むつは、不機嫌そうにズボンのポケットに親指をかけて、店の壁に寄りかかっている。
「よぉ、待たせたな。じじぃにはこの暑さも距離もこたえるもんがなるな」
山上は流れる汗を拭った。そんな山上を見てむつは、くすっと笑った。むつの方も少し汗をかいているようだった。
「ここです」
むつは、壁に寄りかかったまま大きな赤提灯のぶら下がった店を見た。
「お前、赤提灯の店によく行くのか?」
「ここは良い所なんですって」
そう言うとむつは、ガラガラカラっと音をたてて引き戸を開けた。店内には、誰も居なかった。
「といちゃーん‼」
むつは暖簾をくぐり、大きな声を出して店内に入っていく。山上もその後に続いたが、冬四郎と篠田は顔を見合わせて、入るのを躊躇っていた。
「いらっしゃいっ‼」
威勢の良い声を出しながら、カウンターの奥から男が慌てたように立ち上がった。
「あ、なーんだ。たまちゃんか」
男は、ふにゃっと表情を緩めた。
「なーんだ、とは何よ。奥空いてるでしょ?4人、入るよ?」
むつは慣れた様子で奥に入っていく。
「おう、いらっしゃいませ、どうぞ。奥に」
男は山上たちに笑顔を向けた。