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5話
「わしは海神に言われて人を海に近付けないようにしていた」
「何で?」
「それは、聞かんでも分かるやろ」
片車輪はすいっと海の方を見た。海の沖合いの方には、うっすらと霧が出ている。
「あれは何?」
「分からん、わしらみたいな妖とは違う様な気がするしのぅ…」
「とにかく、腕は返したよ。あれもこっちで片付ける約束を海神様としたから」
片車輪はずいっと、ごつごつとし髭でもじゃもじゃした顔をむつに近付けた。
「な、何?」
むつは反射的に1歩下がった。すると片車輪も1歩分前に出た。すると、ずっと黙っていた冬四郎がその間に入った。
「変わった娘やな」
「五月蝿いよ。西原先輩、後任せます」
片車輪に向かってむつは、しっしと追い払うように手をふった。そして、霧のかかっている海の方をじっと見た。
「任せるって何だよ」
「え?だって、片車輪の件はこれで終わりじゃない?もう暴走する事もないだろうからさ…調書とるなりなんなりと」
むつがそう言い、片車輪から離れていくと西原と共に篠田が、興味津々の様子で片車輪をしげしげと見ている。
 




