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5話
網が上にあがって行くと同時に、網の上にあったはずの太い腕が、さささっと網からこぼれ落ちた。
「わしの腕ぇえ‼返さんか‼」
きっちり網の中に収まった片車輪は、炎をさらに吹き上げ暴れている。だが、針金のおかげか、むつの札の効果なのか網を破る事が出来ずに居た。
むつは、そっと指先を網に押し付けた。
「動きを禁ず」
暴れまわり、紐を持つ四人も振り回され気味だったが片車輪はぴたっと動かなくなった。
「腕を寄越さんかぁ‼」
動けなくとも鬼の形相で、むつを睨み付けている。むつはものともせずに、網からこぼれ落ちた腕を拾った。
「返してほしくば炎をおさめ、元の大きさに戻りなさい」
「嫌じゃ‼」
「ふーん?」
ぼとっと落とした腕に、むつは抜いた日本刀の刃先を突き付けた。
「ミンチにするのは得意よ」
「脅すつもりか?」
むつはにやっと笑うと、網に近付いた。そして、低く小さな声ではあったが、はっきりと
「海神様に報告してやろうか?」
と言った。




