5話
むつがじーっと見ていると、冬四郎は降参したように両手を上げた。
「紫陽花の時に何かされたんじゃないかと思ってる。篠田さんに手掴まれた時もやけに怖がってたしな」
「あ…篠田さんね。怖いってのあったけど気持ち悪かったよね、あの時の妙にきらっきらした目とか。今はオカルト好きって聞いてるから大丈夫だけど」
むつは紫陽花の時の話を無視した。だが、今度は冬四郎にじっと見つめられ降参するしかなかった。
「言いたくない事もあるんだけど」
「やっぱり何か…その悪戯とかされたのか?病院行ったか?何かもし」
冬四郎が言いにくそうに、それでも懸命に言葉を探して困っているとむつは、立ち上がった。
「むつ…ごめん、無神経だった」
むつは冬四郎を無視し、止まった洗濯機の前に行くと蓋を開けて、洗濯物を出すと上の乾燥機に詰め込んでいる。
「そこまでじゃないから、大丈夫」
乾燥機のスイッチを押して、冬四郎の隣に戻るか、部屋に戻るかでむつは悩んだ。悩んだあげく、しょんぼりとしている冬四郎の隣に戻った。
「ごめん、本当に。そりゃ言いたくない事もあるよな…けど、何で調べの時に言わなかったんだ」
「しろーちゃんだったから。言いたくなかった」
「女性警官とかになら話してたか?」
むつは首を振った。
「しろーちゃんの耳に入るなら言わなかったかな…ちょっと寝てくるよ。夏は本当、嫌な事しかないから嫌いなんだ」
むつは振り向く事もせず、足早に部屋を出ていった。




