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5話
ホテルに戻るのも面倒くさいのか、きちんと片付けたばかりのパイプ椅子に座るとむつは、はーっと深く息をついた。そして、残され冷えたピザをつまむ祐斗を見ながら、うとうとしていた。
「むつ、そこで寝るな」
冬四郎が手の甲で、むつの頬をぺちぺち叩くとうっすら目を開けたが、すぐにでも閉じてしまいそうだった。
「ホテル戻れよ」
「もぅ動きたくない」
鬱陶しそうに、冬四郎の手を払うとむつは、再び目を閉じた。
「抱っこしてやろうか?」
「はぁっ?」
目を開けて身体を起こすと、冬四郎は、むつに目線を合わせるように膝をついていた。
「重たいって言うから遠慮するよ」
むくれたように言い、むつはのろのろと立ち上がった。
「重くないって言ったら、いいのか?」
「そうじゃないけどさ」
「甘ったれ」
むつは下唇を噛み、むうっと唸った。そして、冬四郎の横をすり抜けて、鞄に使わなかった紙などを詰め込んだ。
そして、まだピザを頬張っている祐斗の耳を引っ張り、帰るよと言っている。颯介はその二人を見て笑い、西原と二言三言、言葉を交わしてピザの箱を持って出ていった。




