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1話
冬四郎は財布を受け取ると、持ってきていた鞄にしまった。
むつは考えこむように、うつむいて指を顎に添えていたが、ぱっと顔を上げ何度か瞬きをして、大きく息を吸い込んだ。
「しろーちゃんさ、仕事落ち着いたら連絡するって言ったよね?」
そう言うと、また少し黙った。そして、意を決したように、冬四郎を真っ直ぐに見つめた。
「仕事に打ち込むしろーちゃんは格好いいと思うし好き。けど、嘘をつくしろーちゃんは嫌い…埋め合わせなんていらない、いつになるかも分からない事なんて言って欲しくない。連絡だってずっと待ってたのに」
むつはそう言うと、冬四郎を睨むように見た。その目には今にも溢れそうな涙が溜まっていた。
ぷいっと顔を背けるとむつは、少しだけ歩く速度を早めた。追い付こうとして、冬四郎はそれを止めた。言える言葉が見付からなかったからだ。




