5話
「けど、けどね、その中で息が続かなくなって溺れ死ぬんだって思った。目を開けてるのもツラくなって、でその時に」
その時に誰かの顔が浮かんだ。と言いそうになり、むつは慌てて口をつぐんだ。
「その時?」
悪意のない祐斗の問いに、答えるまでに少し間があった。口を開け結局、何も言わずに閉じた。困ったように、祐斗を見た。
「走馬灯…?っていうのかな、そんなのが見えた気がしたの、うん…走馬灯」
自信なさげに、むつは言った。誤魔化したかったわけじゃなく、言うのが恥ずかしく、走馬灯という事にしようと、噛み締めるように走馬灯、ともう1度言った。
「で、気付いたら、その変な所に居たのか?」
「そうそう、寝かされてて起きたらね」
冬四郎には誤魔化しがきかなかったのか、胡散臭そうな目で見られてしまった。
「そこでは、何してたの?」
「下半身が蛇のおじいちゃんとお話」
「下半身が蛇って怖くないですか?」
篠田が再び、食い付き気味に前のめりになる。むつは、自然と身を引いた。それを見ていた西原が、篠田の肩をひいて背もたれに背中をつけさせた。
「死んでると思ってたので、怖くはなかったですよ。普通に…ちょっとずれてたかな?でも会話出来たので」
「どんな話をしてたんだ?」
篠田の肩をやんらりと押さえたまま、西原が聞くとむつは困ったような顔をした。




