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5話
口元を拭われ、恥ずかしさと共に落ち着いたのか篠田はこほんっとわざとらしく、咳払いをして座り直した。
「普通の人には来れない場所だって聞いて…だから、わたしも死んだのかと思って」
「死んだって、呼ばれたんだろ?どうやって行ったんだ?」
冬四郎はピザの耳の部分をかじりながらも、ちゃんと聞いていたようだった。あっという間に食べ終えた冬四郎は、次を選んで皿に乗せていた。
「えーっと、渦っていうの?こういう、竜巻みたいなの」
むつは人差し指を伸ばして、指だけを回す事は出来なかったのか、手首からくるくると回して見せた。
意外と不器用そうな所を垣間見て、祐斗は頷きつつ、笑った。
「鳥居の所から泡が浮かんできてるって思って、気付いたら、その中に居たの」
そこまで言うと、むつは颯介の方を見た。
「いや、俺はそんなの見てないけど。少し目を離したらもう消えてたから」
むつは、驚いたように目をぱちぱちさせていた。




