5話
一切れを食べ終えたむつは、ふぅっと息をついた。空腹だったはずだし、確かに美味しいとも思うがもぅ手が動かなかった。
「あんまり食欲ないね」
颯介が気遣うように、紙皿を遠退けコーラをいれた紙コップを置いてくれた。
「ありがと、疲れてるのかな?」
むつは、コーラをゆっくり飲んだ。炭酸が喉を通りすぎていくのが心地良い。が、これも腹にたまるものだ。あまり、がぶがぶ飲める物じゃない。
「何があったの?」
「海で?」
むつと颯介が、海での話を始めようとしているのに気付いたのか、それぞれ離れた所で食事をしていた四人も集まってきた。
「あそこは不思議な所だったよ」
頬杖をつき、誰にともなく少し笑った。
「穏やかな春のような温かさで、風もなく草花が揺れてて、静かで…そう川が流れてたのに音もなくって。ホントに静かすぎて寂しい場所だったよ」
「神社の中にそんな所が?」
ずいっと顔を近付けてきた、篠田の興奮を抑えられない様子とチーズのせいで妙にテカる唇のアンバランスさにむつは、苦笑いを浮かべた。
「中って言うのかなぁ…次元が違うって言い方のが、しっくり来るかも」
「次元が違う…その、場所にはわたしでも行けるんでしょうか?」
余程、気になっているようで篠田の瞳は、きらっきらと輝いている。この人危ない人だよな、とむつは思った。そして、妙にテカる唇も気になっていたし、少しばかり嫌だったので紙ナプキンで唇を拭ってやった。