200/309
5話
再び冬四郎に睨まれ、むつは今度こそ大人しくなった。態度のわりには優しく、そっとむつをボートに乗せた。
シュノーケルセットとむつの眼鏡をかけ、日本刀を持った祐斗も乗り込むと、冬四郎はオールを持ち戻る為に漕ぎはじめた。
むつは、ぐったりと船縁に肘をかけて座っている。来た時のように、水に手を入れて笑う元気もないようだった。
「髪の毛ばしばしだ…お風呂入りたい。…けど、このまんま車に乗ったら颯介さん怒るかなぁ」
元気はないものの、身だしなみを気にする余裕はあるようで、誰にともなくぶつぶつと呟いていた。
「大丈夫そうですね」
祐斗が呆れたように言うと、冬四郎も笑うしかなかった。
洞窟のある岩場まで戻ると、荷物のように冬四郎に抱き上げられ、陽射しで温まっているの岩の上に下ろされた。
水着が濡れているせいか、身体が冷えきっているせいか、むつは文句も言わず熱いくらいの岩の上に寝そべり身体を乾かしている。
むつの服や荷物を下ろすと、冬四郎と颯介がボートを引っ張って返しに行った。むつはその二人の姿を、ぼんやりと眺めていた。
 




