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1話
「本当に悪いと思ったよ、けど…仕事をほって行くわけには行かないだろ?だから…その」
言い訳がましく言う冬四郎に対して、むつはだんだんと眉間の皺を深めていった。それに気付いたのか、冬四郎は慌てた。
「ごめんな」
他に言葉が見付からなかったのか、それだけ言うと冬四郎は、困ったようにむつを見た。
むつは、眉間に皺を刻んだままで何も言わず冬四郎を見上げている。
「約束した事も守れなかったし、そのあと仕事にかけつけて連絡もしなかったのも悪かった…埋め合わせしたいんだけど、どうしたら良いかな?」
黙ったままのむつは、ぽんっと冬四郎の胸元に持っていた財布を押し付けた。
「持っててくれるんでしょ?持ってて。不用心だからね」
「えっ…あぁ、分かった」