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1話
祐斗は斜め前でデスクワークをしている、むつの顔を盗み見た。いつもと同じように無表情にキーボードを叩いている。が、どことなく機嫌悪そうだ。
奥の来客スペースで、山上と対面して仕事の話をしている人物のせいなのだろう、というのは、颯介にも祐斗にも分かっていたが、理由までは知らなかった。
「玉奥さん、ちょっといいかな?」
山上の仕事用の声がして、むつは面倒くさそうに振り向いた。
「一緒に話を聞いて貰いたいんだが」
むつが、にっこりと笑うのが見えた。その笑顔は、可愛らしく見ている方まで笑顔にさせるような笑みだった。だが、祐斗は何となし緊張した。
その笑みを試験が無事に終わるまでに、何度となく見て、そのたびに厳しいお言葉が降ってきたからだった。
「私がお話を聞く必要性はないと思いますよ。社長がお話を聞いて、仕事として引き受ける事になってから、お声がけしてくだされば結構ですので」