4話
がぼっと口から泡が出た。つい今しがたまでしっかり地面を歩いていたはずが、もうその地面もなかった。浮いている感覚と息苦しさで、自分がどこに居るのかをすぐに理解した。
神の領域から出るという事は、いきなり水中に投げ出される事か、と思った。
懐中電灯もゴーグルもなく、視界はゼロだったが泳ぐしかない。むつが手足を動かして、浮上しようと懸命になっていると、何かが下から押し上げてくれている流れがある事にに気付いた。
力強いそれは、あの老人の手のように思えた。
ざばっと勢いよく水面から顔を出し、むつはむせこんだ。海水を飲んでしまったせいなのか、酒のせいなのか喉が痛くて苦しくて、涙が浮かんだ。
押し上げていた流れがなくなると同時に、老人の声が微かに聞こえた気がした。言い忘れてすまなかった、身に付けていた物は貰っておく、と。
むつは苦笑いを浮かべるしかなかった。
水音に気付いたのか、ライトがこちらに向けられているのが分かる。それと同時にざぶんっという何かが水に落ちる音が2回聞こえた。
「むつっ‼」
「むっちゃん‼」
冬四郎と颯介の声がした。戻ってきたという実感がわき、むつは泣きそうになったが、ばしゃばしゃと海水を顔にかけ誤魔化した。
「しろーちゃん、颯介さん‼」




