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4話
むつが素っ気なく言うと、老人が頭をわしわしと撫でた。老人にしては力強く、頭が揺れて酔いが回りそうだった。
「それこそ、自分で決めないとな…だがもう決まっているのでは?それに気付かないだけかも知れぬがな」
「そう、なんでしょうか?」
「さて、途中まで送ろう」
すっくと立ち上がった老人に続き、むつも立ち上がった。小屋を出て老人の後を歩きながら、肝心な事を思い出した。
「あの…それで結局、妖の事は教えて頂けないのですか?」
「ふむ、よく分からんのだ。古い物に立ち替わり新しい物が次々と出てくる時代だ。妖とて、過去の異物となろう」
「それは神々も、ですか?」
老人はくるっと振り向くと、にゅっとむつに顔を近付けた。潮の香りがした。やはり、海神様なんだなとむつは思った。
「そうだ…長く引き留めすぎたか?上が騒がしい」
「騒がしいですか?わたしには何も聞こえてきませんが」
「何度となく潜って、神社の様子を伺っている男たちが居るな…彼らは君のいう、側に居てくれる人か?」
むつは、彼らという複数系の言い方に気付き、にっこりと笑った。
「きっと、そうですね」




