4話
「呼んだだけだ。死んではいない」
「ですが、普通の人には入れない場所だとおっしゃったではありませんか」
老人の笑顔が深くなった。瞳には白目がなく、真っ黒で覗き込むとそのまま吸い込まれそうな程に暗い。だが、その目の端に出来る笑い皺には愛嬌のようなものがある。
「そう、君は自分が普通だと?」
「…違うのですか?」
むつは、また酒を舐めるように少しだけ呑んだ。普段あまり日本酒を呑まないせいなのか、それとも普通の酒とは違うのか。少しだけ、ふわっとした感覚になっていた。
「さて、さて…ふむ。君の事は君が決めるべきだからな、己が普通の人間だと思うならそれで良い。だが、それを認めない者も居るだろう」
老人が何を言いたいのか、むつにはよく分からなかった。酒のせいなのか、思考がまとまらなくなっている。
「普通、というのも所詮は己の物差しではかるものだからな。100年を、100年もというか、100年しか、というのか…というのと同じだな」
「100年は長いと思いますよ。退屈ではありませんか?」
「だが、その100年の時に色々な者とも出会った。君の両親もそうだ…だが、こうして呑む事はなかったなぁ」




