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4話
「水に沈んでしまったからな。…だが、噂はよく聞いてたよ、君のな」
むつは老人のお猪口に酒を足し、徳利を置くと首を傾げた。知り合いに神様が居たなんて、聞いた事もなかったし、この辺りには来た事もなかったからだ。
「顔立ちは母親似だな、その豊かな髪も。力は父親譲りだな…意外と肝が座っていて無茶をしそうな所も」
「両親にお会いした事があるのですか?」
むつは寂しそうに、視線を手に持っているお猪口に向けた。まだ、並々と残っている酒にぼんやりとむつの顔がうつしだされている。似ていると言われてもピンとは来なかった。
「君の産まれる前にな」
「それが理由で、ここにわたしを?」
「そうだな、それとこの海を荒らしている妖を鎮めて貰うためにもな」
老人は自らお猪口に酒を足している。むつのお猪口にも足そうとしたが、まだ並々と残っているのに気付くと、少しだけ残念そうにした。それに気付いたむつは、くいっと中身を飲み干した。
「鎮めるも何も…わたしは死んでいるのでしょう?」
ふふっと笑った老人は、むつが頑張って空にしたお猪口に酒を注いだ。




