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1話
慌てたせいか変に、ぎこちない返事になってしまい冬四郎は益々、心配そうにむつの顔を覗きこんだ。
「大丈夫っ、ほんと、…ありがと」
むつのはにかんだ笑顔を見て冬四郎は安心したように、笑みを浮かべた。そして、むつを歩道側にやると自分は車道側に立った。
むつは、そんな冬四郎の優しさに嬉しくなったのか、にっこりと笑った。そして、さっきよりも近い距離で、肩が触れそうな距離で並んで歩き出した。
「なぁ、むつ。あー、あのさ、まだ怒ってたりするのか?」
「何を?」
何を言っているのか分からず、むつがぱっと顔を上げるとまた冬四郎の顔が間近にあった。
「いや、ほら…一緒に食事するって約束、手作りでって言っといて仕事で行けなかっただろ」
「………」
むつは黙って、まじまじと冬四郎を見上げていた。