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4話
この風景を見てると、時間の流れを忘れてしまいそうだった。だが穏やかなのに、誰もおらず寂しさばかりが募っていきそうだった。
「帰りたいか?」
若々しい男の声にむつは振り向いた。振り向いた先に居たのは、頭頂部がツルッとし落武者のようにまだらな髪の毛を下ろし、鼻の下に真っ白な髭を蓄えた老人が居た。
「帰りたいか?」
先程、聞こえた若々しい男の声はこの老人の声だったようだ。声と見た目のギャップがありすぎて、むつは後ずさった。
「帰りたいです…ここは?」
「海の中の神社だ。普通の者が立ち入れない領域ではあるがな」
老人の話を聞き、むつは考えるように下唇に指を添えていた。
「貴方があの神社の主と、いう事ですか?…なら、私は死んだのでしょうか」
むつのどの問いに対して老人は、首を振ったのか、むつには分からなかった。言わずとも笑ったのか老人は、微かに笑った。




