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4話
むつはゆっくりと階段を降りて、地面に立った。空は霞がかかっているのか、ぼんやりと白っぽいが、春の陽気の様に穏やかで温かい。色とりどりの花が咲き、風もないのにゆらゆらと揺れていた。
穏やかな陽気とは裏腹に、むつは落ち着かなくなってきていた。場所としては良い所なのだろう。だが、やけに脈がドクドクとしていて、冷や汗が出た。
ここから出なくてはいけない。そう思い、走り出したがこの景色はどこまでも続いているような気がした。
息が切れるまで走り、手を膝についてはぁはぁと荒く呼吸をした。ふと視界に入ったのは、ゆるやかに流れる小川だった。小川の畔には、梅の木に似た木がはえていて、その細い枝には雲のようなものが引っ掛かっている。
夏によく見る入道雲のように、分厚く真っ白だが小さな欠片のような物だった。むつは何を思ったのか、その雲にそっと触れてみた。すると、音もなく砕けバラバラになって散っていった。
むつは、タンポポの綿毛のようだと思いながら、散り散りに流れていく白い物をぼんやり眺めていた。




