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1話
山上の笑い声に冬四郎は、後ろを振り返った。むつも少し気になったのか、ちらっと後ろを見ていた。
前を向こうとしてついでのように、むつを盗み見しようとして、目が合った。
「むつ」
名前を呼ぶと冬四郎は、むつの腕をつかんで引き寄せた。むつが踏ん張って抵抗しようとしたが、冬四郎の腕が頭に回されていて出来なかった。
むつが離れようとした時、むつの後ろを猛スピードの車が通過した。
「あっぶねぇ…大丈夫だったか?」
顔を上げるとすぐ目の前に冬四郎の顔があり、むつは驚いていた。
「ん?…むつ?」
こんなに間近で冬四郎の顔を見る事のなかったむつは、ぼんやりとしていた。切れ長な瞳は一重だと思っていたが、奥二重で、綺麗な瞳だった。
真剣な目付きで覗きこまれ、むつは慌てて目を反らして離れた。
「だ、大丈夫…ありがと、うです」