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4話
むつは手で口を押さえて、渦から出ようと浮上してみたがどこまで行っても出れそうな気配がない。
颯介の姿を懸命に探すも何も見えない。あるのは、渦が作り出す細かな泡と真っ暗な闇ばかりだった。
焦れば焦る程に息が苦しくなり、水中だというのにふらつくような感覚がした。だんだんと目を開けている事さえ、億劫になりむつはゆっくりと目を閉じていく。
身体がゆっくり沈んでいくにも関わらず、抵抗も出来なかった。もはや苦しいと思う事もなく、あるのは無だった。
地面に身体がつき、ふわっと砂を巻き上げた。失いかけている意識の中でふいに思い浮かんだ顔があった。だが、輪郭さえもぼやけていて誰なのかが分からなかった。
最期に見る顔くらい、笑顔が見たいと思ったが、誰の笑顔が見たかったのかむつ自信にも分からないまま、むつは完全に意識を手放した。




