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1話
篠田の意外にもするどい視線に山上は、くっくっく、と笑った。
「むつは、向こうに渡せない」
山上はそう言うと、眩しい日差しに目を細めつつも前を歩くむつを見た。むつと冬四郎は、相変わらず微妙な距離を開けて、黙って歩いているようだった。
「沼井さんが彼女に興味を持ってるってわけですか?」
「どうやらな…むつも単独で動くから、怖いんだよなぁ。みやがもぅちっとなぁ~」
篠田は、くすくすと笑った。
「無理でしょうね、あの様子じゃ」
「うーん…何だかなぁ、あの思春期みたいな変な雰囲気は」
二人は揃って、むつと冬四郎の方を見た。微妙な距離は縮まる事もそれ以上に開く事もない。ただ時折、冬四郎が気にかけるように、むつを見ている。
「何か中学生みたいだよな」
「ですよね、変な初々しさというか…何と言うか。ちょっとイライラします」
篠田の言葉に山上は声を上げて笑った。