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1話
山上と篠田が連れだって先に出ていくと、自然とむつと冬四郎が並んで歩く形になった。
携帯はズボンのポケットにしまっているものの、財布は手にしたまま、出ようとするむつに冬四郎は気付いた。
「むつ、その財布不用心じゃないか?」
「しまう所がない」
上着は着ていないし、ズボンのポケットには入りそうにない長財布をむつは、両手でしっかりと持っている。
「持っててやろうか?」
冬四郎が手を出すがむつは首を振った。
「そんなに子供じゃない」
エレベータを開けて待っている山上が見えたからか、むつは小走りに行ってしまった。置いていかれた冬四郎は、少しばかり不機嫌そうにその後を追った。
不機嫌そうな冬四郎とむつに挟まれる形になった山上は、二人をこっそり見比べるも何も言わなかった。




