4話
「西原君がいるだろう」
「それは学生の頃の話だよ」
むつは、折り畳み式の鏡を見ながらアイラインをひいていた。
「…何で別れたか知ってる?」
鏡越しにむつは冬四郎を見ていた。冬四郎は何も言わずに、髪の毛をとかしている。
アイラインをひき終え、くるっと振り向いたむつは、冬四郎の膝に手を置いた。
「結婚を前提にって言われたの、けどさ…結婚してもし子供を授かれたとして…その子があたしみたいな力を持ってたら?その力で人を傷付ける事になったら?…そう考えたら、ね」
少し早口に言うむつを冬四郎は黙って見ていた。むつは、ひんやりとする程の無表情だった。
「学生の頃、西原君と付き合った後は誰かと付き合ったりしてないのか?」
「してない」
「今は?」
「だから、居ないって‼」
「じゃなくて、今も西原君の事…」
冬四郎の言おうとしている事に気付いたむつは、少しだけ笑った。そして、ゆるゆると首を振った。
「昨日は…どうかしてたと思うよ、自分でもね」
むつと向き合っているはずなのに、少し伏し目がちで顔を下に向けている事に冬四郎は少しばかり傷ついていた。
「行こっか」
アイライナーと鏡を片付け、冬四郎の手から櫛を取るとポーチにしまった。そして、手早く三つ編みにすると鞄と西原のジャケットを持って、むつは部屋を出た。少し遅れて冬四郎も立ち上がると、むつの後を追って出ていった。




