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1話
コップと布巾をおぼんに乗せると再びキッチンの方に向かっていった。すぐに水の音が聞こえてきた。
「何があいつの境界線なのかわかんねぇよな」
山上の呟く声は冬四郎の耳にはしっかり聞こえていた。篠田の方をちらっと見ると聞こえていないのか、ぼんやりと外を眺めていた。
山上も出掛ける為にか、デスクの方に戻り、颯介たちに声をかけている。
冬四郎はキッチンの方を見ていた。病院からの帰り道に、むつが落ち込んで泣きそうにしていたのは、そういう理由だったのかと思った。何でも話してくれるわけではない事が少し、気にかかった。だが、誰に何を話すかは本人が決める事であり、冬四郎にはどうしようもなかった。だが、山上には話したのかと思うと悔しい気持ちだった。
水の流れる音が途絶えると、デスクの方からむつの微かな声も聞こえてきた。
そして、携帯と財布を持ったむつがひょこっと顔を出した。
「お待たせしました、行きましょうか」