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3話
むつの睫毛が微かに震えた。西原はベッドに座り、むつの顔の横に手をついた。真上から顔を覗きこんだ。
「むつ?起きたか?」
西原の声を聞き、冬四郎たちもベッドの脇に近寄ってきた。
「むつ?」
うっすらと目を開けたむつは、ゆっくりと瞬きをした。その目には涙が溜まっているのか、ゆらゆらとした物が見えた。
「どうした?」
西原が人差し指でむつの目元を拭った。たっぷりと溜まっていた涙が西原の指にのっていた。
「せんぱい…?」
「どうした?大丈夫か?」
むつは甘えたような声を出して西原の手に自分の手を重ねた。そして、その手を頬にあてるようにしている。もう片方の手をゆっくりと持ち上げて、むつの力ない手が西原の頬に添えられた。
「えっ…と、むつ?」
むつの顔がくしゃっと歪んだ。むつは何も言わないまま、大粒の涙をぽろっと溢した。
「あっ‼」
我に返ったのかむつは、西原の頬に添えていた手をぱっと引っ込めた。そして、手の甲で目元をぐいぐい拭った。




