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1話
閑古鳥が鳴いてる、と聞き篠田が少しだけ眉をひそめた。どう聞いても、期待は出来そうにないと思っているのが分かる。
そんな様子に気付いたむつは、篠田に笑いかけた。
「お高く綺麗な所だけが、良い場所とは限りませんよ」
むつの言いたい事に気付いた山上は、苦笑いを噛み締めて頷いた。冬四郎は反対する事なく、出る準備をしている。
それを見たむつもテーブルに並んでいるコップを片付けるべく、おぼんを取りにキッチンの方に向かった。
むつの後ろ姿が見えなくなると、山上は冬四郎の隣に立った。
「紫陽花の時以来、ちと男がダメみたいなんだよ」
こっそりと篠田には聞こえないように山上が呟いた。冬四郎は驚きを隠せずに、山上の方を向いた。
「何かされたって事ですか?」
「言わないから分かんねぇけど、そうなんじゃねぇのか?」
「山上さんには平気そうでしたけど?」
「俺は男じゃねぇって事だな」
ひそひそと話をしていると、むつが戻ってきた。山上は、コップをおぼんに乗せるのを手伝い、布巾でさっとテーブルに残った水滴を拭った。