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3話
落ちてくるむつを抱き止めようとした時にすでに、血に濡れていたからか、西原は特に気にした様子はなかった。
「負けた」
祐斗がぼそっと呟くと、颯介もかすかに頷いた。
「とにかく戻りましょう。むつを休ませないと。むつのバイクは後でわたしが回収しておきますから」
「そうですね」
颯介は運転するからと、祐斗に片車輪の大きな腕を持たせた。祐斗は何とも言えない顔をしていたが、西原の手前、嫌とは言えなかった。
西原は、むつを乗せた助手席を少しだけ倒してからシートベルトをつけた。そして、運転席に回り込みホテルに向かって車を走らせた。
「西原さんって凄いっすね」
「俺らでも、あれ回収するの嫌だったのに」
「あっ、日本刀‼」
突然、思い出したのか祐斗は腕をシートに置いて懐中電灯片手に車から降りた。むつが落ちてきた辺りに日本刀も鞘 も転がっていた。
「良かった」
祐斗は、刀身を鞘におさめようと柄を持つと、少しだけ首を傾げた。刀身が振動したような気がした。
「祐斗君、あった?」
「はい、ありました」
刀身を鞘におさめると、何事もなかったように祐斗は車に乗り込んだ。




