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3話
『むつ、まだ車輪に捕まったままか?』
西原の緊張したような声が少し遠くで聞こえる気がした。呼吸が出来ず意識を手放しそうになりつつも、むつは左腰に差していた日本刀を引き抜いた。
『むつさん、上だっ‼』
日本刀の刃が炎に照らされて光ったのか、祐斗の声がした。その声はイヤホンからでもあり、直接でもあった。
「むっちゃん‼」
イヤホン越しではない颯介の声にむつは、身体をひねりつつ片車輪の腕に日本刀を振り上げた。太い腕だったわりに、簡単に切り落とす事が出来た。
「ぎゃぁあ‼何しやがる‼」
片車輪のしゃがれ声が、あっという間に遠ざかった。むつは、すでに日本刀を手放し目も閉じていた。そして、背中からコンクリートの地面に向かって落ちた。
がくんっと首が揺れるような衝撃が走り、知らず知らずのうちに声が漏れた。その声がむつの物だったかは、分からない。
「いってぇ…むつ‼むつ、大丈夫か‼」
頬をぺたぺたと叩かれ、むつはうっすらと目を開けた。




