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3話
むつは逃れようと片車輪の引き剥がそうとするも到底、力では敵いそうになかった。
「女は非力だ、そうじゃろう?」
片車輪がぐっと腕に力をこめた。むつは腕に圧迫され、苦しそうに呻いた。その声が聞こえたのか、片車輪は楽しそうに口角を持ち上げた。
「逃れられぬが、悔しいか?」
めきっと骨が鳴るような音がした。
「はっ…くっ、そ」
むつは、何とか隙間を作ろうと太い腕に爪をたてて抵抗するも何の意味もなさない。それを分かってか、片車輪の腕にさらに力が込められた。
むつの額に大粒の汗が浮いている。暑さのせいではなく、脂汗のような嫌な汗だった。呼吸が出来なくなり口を開けて空気を取り込もうとするも、スピードが出ていて風が当たるだけで余計に口の中が乾いていく。
霞みそうな意識の中、むつの視界に黒い塊のような物が見えた。それは、塊ではなく松の木は林だった。
もうすぐで、颯介と西原の車で道を塞いでいる所に出るのだと分かった。




