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3話
「ねぇ、下ろしてよ」
むつは友達に話しかけるような調子で、車輪の上にくっついている頭に向かって声をかけてみた。
「おぉう」
ぐいっと足を持ち上げられ、変な声が出た。
「あんた、わしが怖くないんか?」
酒焼けのようなしゃがれた声だった。
逆さまの状態で見る、その顔は太いげじげじ眉毛に一重だが大きな目に鷲鼻、そして豊かな顎髭をたくわえた中年くらいの男だった。
「はー?怖いわけないじゃん、頭に血のぼって気持ち悪くなってきたって」
むつは、逆さまで足を掴まれているにも関わらず、腕を組みふんぞり返るような態度だった。
「あんた、片車輪でしょ?」
「わしを知ってるのか?」
名前を呼ばれたからからスピードが少しだけ遅くなった。
「我を見るより我が子をみろってやつじゃん、知ってるわよ」
片車輪はさらにむつを高く持ち上げ、その顔をしげしげと見るとにんまりと笑った。
「お嬢ちゃんは肝っ玉が据わってんな」
「ねぇホント気持ち悪い。せめて上下を逆にしてくれる?」
『むっちゃん、そんな暢気な場合?』
 




