3話
「むつさんは?」
ロビーのソファーにゆったりと座っていた颯介が、首を振った。
「寝ちゃったんですかね?」
祐斗が空いているソファーに腰を下ろすと、玄関の自動ドアが開きむつと西原が箱を手にして、にこやかに話をしながら入ってきた。
「うわ…まじか」
祐斗は、ちらっと冬四郎の方を見た。冬四郎は少しだけ口を開けて、ぼんやりとその二人を見ていた。
「あら、あたしらビリじゃん」
「お前がちんたらしてっからだろ」
「えぇ、人のせいにする」
勿論本気ではないやりとりをしながら、むつと西原の箱をテーブルに置いた。むつは、そのまま床に膝をつくと箱を開けた。
「それは?」
「こっちはトランシーバー。連絡取るように…そっちの箱は」
西原が開けた箱にはダイビングで使うフィンやシュノーケルが入っていた。
「むつ、とりあえず床に座らずソファーに座れよ」
西原がむつを立たせるように腕を掴んだ。むつはすんなり立ち上がると、祐斗の横に座った。
「で、むつさん。これらは?」
篠田が期待をこめたような目で、むつを見つめていた。むつもその視線をしっかりと受け止めていた。
「警視ともあろう人がなーに期待してんだか」
祐斗はぎょっとして、むつを見た。唇をほとんど動かさない、その呟きは隣に居る祐斗にしか聞こえていない。超音波の囁きだった。
「ご説明した通り、連絡取るようの物です。こちらは、篠田さんの方には関係のない物と思いますのでお気になさらず」




