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1話
振り向いた山上は、むつを抱き寄せるとついでのように冬四郎をはたいた。
「いった‼」
冬四郎が近付くと怖がったくせに、山上の腕の中にすっぽり収まったむつは、怖がりもせず大人しくしている。
「さて、むつ。このバカ達と飯行くか?ゆっくり話出来るように」
祐斗や颯介には聞かれたくない話になるのかと思い、むつは山上の胸元に埋めていた顔を上げて首を傾げた。
山上の普段聞く事の出来ないような柔らかく優しい物言いに、冬四郎は少し驚いていた。顔を殴られた篠田も、意外そうな顔をしたまま、座り込んでいた。
しばらくむつは、黙っていた。だが、しっかり頷いて、山上から離れた。
「どこに行きますか?」
「ゆっくり話が出来て、人目を気にしなくて良い所ってなると…この時間帯は無いかもしれませんね。ランチ近いですし」
しゃきっと立ち上がった篠田は、再びむつに笑みを浮かべていた。




