3話
背中にかけていた鞄を前に持ってくると、中からタバコを取り出したむつは、片手で箱のふたを開け口を近付けて1本くわえた。ぽっと小さく指先に灯した陰火で火をつけた。
「便利に使うねぇ、外ではあんまりやらない方が良いよ」
その様子を見ていた颯介に、やんわりと注意を受けむつは笑った。
「大丈夫、誰にも見えてないよ」
「いくら人が居ないからって」
「そうじゃなくてさ」
むつは、ゆっくりと煙を吐き出した。口の端にタバコを挟んだまま、砂浜を指差した。そこには、点々と海水浴客の荷物らしきものが起きっぱなしにされていた。
「人が居ないのに荷物だけある」
「片付けずに帰ったんじゃなくて?パラソルとかは貸出し物なんじゃない」
「バッグとかは?私物じゃない?片付け途中にしても荷物をほったらかして誰もいないってのは、変だよ。あそこ、だけじゃないし」
胡座をかいているむつは、左手を膝におき頬杖をついている。浜辺と沖合いの両方が視界に入っている様子だった。
「消えちゃったわけか」
「そうだと思うよ」
「それこそ、そんな状況を予想しててよく祐斗君を使いっぱしりにしたな」
颯介は落ち着かないのか腰を上げた。
「大丈夫、ちゃんと追ってるから」
「追う?」




