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1話
「試されたんですか?」
篠田は、すっくと立ち上がるとむつの前に来て膝先ずいた。そして、おもむろにむつの手を取った。
「こんなに可愛らしいのに頭も切れて、物怖じせずに発言出来るんて…本当に噂以上ですね、宜しければお食事しながら、ゆっくりお話しませんか?」
がっちりと握られた手を振り払えず、むつは近付いてくる篠田から逃れようと山上の方に寄った。
一瞬、泣き出しそうな顔をむつがしたのに気付いた冬四郎が、篠田に近付いたが、それより先に山上が立ち上がり篠田の顔を殴り付けていた。
「あほんだら‼うちのむつに気安く触んな」
ぱっと手が放されると、むつはすぐに山上の背中に隠れた。唇を噛み締めて、泣くのを堪えているように見えた。
冬四郎の所からは、むつの表情がよく見えていた。心配になったのか、冬四郎がむつに近寄ると、怖がるように山上のシャツをきゅっとつかむのが見えた。
「大丈夫か?」
冬四郎が覗きこむようにむつを見ると、むつは黙ったまま頷いた。