第8話。資本主義の掟
眼前にはいつものランニングコースの墓地とその隣にある公園だけが広がっていました。誰もいない公園、誰もいない墓地。亡霊たちだけはいつ出てきてもおかしくない雰囲気。しかし、ここには私と「奴」しかいない。
「カメラで撮ってやったよ、お前の身体を舐めまわすようになぁ~へっへっへ。脚というのはなぁ~後ろから撮ると綺麗に撮れるもんだよ、特にふくらはぎから太もも、ヒップのラインがなぁ!たまりませんなぁ~へっへっへ。」
「奴」は舌なめずりしながら更に続けました。
「しかし!そのジャージのズボンがいけねぇなぁ!せっかくのメスのフェロモンが台無しだぜ!メスならメスらしくしようなぁ、おい! 」
男は「ハァー」と溜め息をつきました。
そして一呼吸置いてから、
「なぁ、ナマ足を晒そうや。俺がこのハサミでそのジャージをブルマァみてぇに短く切り刻んでやるよ。それとも…俺のブルマァコレクションの中からブルマァ、履かせてやろうか?何色がいい?紺かぁ?エンジかぁ?それともマニアックにピンクでキメてみるかぁ?!俺は紺色がいちばん好きだがね、くっくっく。」
気持ち悪いにやけ顔で「奴」はそう言いました。
「…………。」
私は言葉を失いました。
「あの…。そんなこと言ったりやったりしてると警察に突き出しますよ!前にも言ったけどここはパトカーが巡回してるんだから!」
「パトカーだって?へっへっへ。そんなもん通りゃしねぇよ、お姉ちゃん。この世はなぁ、強いもんに有利にできてるんだよぉ、弱いもんは泣き寝入りするしかねぇ、お前も労働者階級なんだからそれぐらい分かるだろうが!」
「奴」の眼が真っ赤になっていました。
(やばい……こいつ、やばすぎる。)
「弱肉強食!それが資本主義の掟だろうがぁ!神も仏もねぇんだよ!」
「奴」は怒り狂ったように両手を振りあげ絶叫していました。