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魔法と剣とファンタジーと  作者: 華夏オリト
9/61

魔法の料理は料理じゃない

(特訓初日の日に遡る)


私が特訓初日にモンドに打ちのめされた日、

ドラゴンの治療は素晴らしいくらい一瞬で私の怪我を治して見せた。

魔法というのはなんて偉大なんだろう。


午後からはガルダという人(人じゃないと思うけど)が精神を鍛えてくれると、

つまるところ魔法の特訓ではないか!

モンドには悪いけど、魔法の方がちょっと惹かれる。


わくわくとした気持ちでいると、ドラゴンから声がかかる。


『そうでした。忘れていましたが今日はガルダは来ません。』


『ん・へ・・・?』


『あ奴にも困ったものです。さぼり癖がありましてねぇ。』


・・・・私のわくわく感かえせ!


しょんぼりした私に気を留めるわけでもないドラゴンは、そのまま部屋を出ていく。窓の外では気持ち良さ気に鳥みたいな小さい生き物が飛んでいた。


ぼんやりその光景を眺めていると私も外へ駆け出したい衝動にかられた。

ドラゴンは基本私の行動にとやかく言うことはない。

私が死なない範囲であれば。


重い扉を開けると肺いっぱいに空気を吸い込んだ。

私はきっと明日もモンドの痛い鉄槌を受けても我慢できると思う。

避けては通れないとわかってるし、強くならなければ自由に動き回ることもできないから。


でも許せないことがある。

それはお昼に食べることになるであろう『あの』不味い料理である。

ドラゴンに感謝こそすれ喜々として食べれるわけもない。


私はモンドとの特訓場所である家の裏手に歩いていく。

そこに私は発見をしていたのだ。

小さな小屋を、その中にあるものを。


ここにあるのはおそらくドラゴンには必要のないものなんだろう。

でも律儀にもここに置いているってことは物を捨てられない性質なのか、

森にあったものをただ『拾って』きただけなのか。

あ、まぁ私がここに放り込まれなくて良かったとは思ってるけど。


『うん、これなんていいかも。』


その中から使えそうなものを小屋の外に順々に出していく。

平らな鉄板に、錆びついている兜、先のかけたナイフ、ちょっと厚めの木の板・・・


『これ・・も、使えるかな?』


一通り使えそうなものを並べ終わると、雨漏りで溜まったであろう小屋の中の雨水を集め、ボロキレでそれらを洗い、さびは適当なものでこすりどうにか見れる程度まできれいにした。


後は食材さえあれば何とかなるかな?


私は自称フライパンと鍋と包丁とまな板等をみて頷く。

やはり料理は作るものだ。

私はここで料理に使えそうなものを発見していたのだ。



***


次の日、モンドに再起不能にされる前に

普段食べている食べ物を持ってきてほしいと頼んでおいた。


で、頼んだ翌日、木の実や甘い香りのする果物みたいなのに、

何の動物のものかはわからなかったけど肉の塊を持ってきてくれた。

得体のしれない血だらけのグロテスクな生き物を連れてこられたらどうしようと

内心ひやひやしてたものだから、持ってきたものが以外にも普通で安心した。


モンドは魔力も食べるけど、ちゃんとこういったものでも自分の栄養にできるらしい。


『よがった、か?』

『うん!すごい嬉しい!ありがとう!』


笑顔でお礼を言うと赤い顔をさらに真っ赤にさせたモンドは照れ隠しなのか頭をかいた。

モンドは結局優しい人なのだ。


その後、その優しい人は今日も私にキレッキレの拳を打ち込んだ。



***


『そっか・・・、今日も来ないんだ。』


治療を終えたドラゴンは部屋から出る前にまたガルダが来ないことを

私に告げてきた。

でも残念ではあるけど、やりたいこともあるから私はすぐに心を入れ替えた。


ドラゴンにはお昼は必要ないと伝えて、早速元いた場所へと走った。


香辛料が手元にない以上、凝った料理はできないから

今のところは甘い匂いのする果物と木の実はそのまま食べよう。

肉はさすがに生じゃ食べられないからね、


『よっ・・と!』


鉄板を並べた大きめの石の上に置き、ドラゴンにつけてもらった

ろうそくの火を石の間から差し込み、中に敷き詰めた木の枝に。


ジュージューと肉は焼け香ばしい匂いがしてくる。

薄めに切った肉は良い色に焼けた。


味は・・・・


『・・・!?お、美味しい!』


塩も胡椒もふってもいないのにその肉はちょうどいい塩加減で

この世界に来て初めて『美味しい』料理に(焼いただけだけど)ありつけた気がした。


ちなみに果物も木の実もすごく美味しかった。

モンドは毎日こんな美味しいものを食べていたのか・・!


『・・・・。』


最初は美味しくて一人もくもくと食べていたけど、

一人で食べる食事はなんだか寂しかった。

『美味しいものを食べたい』の次は、その美味しいものを誰かと一緒に

食べたいと思った。


モンドはもう帰っちゃっただろうから、私はドラゴンに持っていくことにした。

肉を大きめの木の葉につつみ、果物と木の実を添える。


家の中にも肉の焼けた良い匂いが漂い、それに気づいたのかドラゴンが顔を出す。


『なんですか、それは?』

『・・・・お肉を、焼いてみたんだけど。』

『・・・ふむ、肉、ですか。』


顎に手を置いたドラゴンは考えるように私の手の中のものをとった。

そして私をじっと見つめた。


『・・・あ、オリジンさん、は、そういうの食べないん・・』

『いえ、頂きましょう。』


私が言い終える前にドラゴンはそれを一口で平らげた。

葉っぱもろとも。・・・まぁ、ドラゴンがそれでいいなら問題ないけども。


『・・・・これは、ただの肉、でしょうか。』

『うん、ただの肉を焼いただけだけど・・・』


それ以外のなにであると言いたいのか。


やっぱり美味しくなかったのかな?そもそもドラゴンは魔力が主食なわけで、でも一応はモンドが持ってきたってことはこの森の植物と肉であるわけで、魔力も多少はあるんじゃないかと思うんだけど。


悶々と考えていた私はドラゴンがまたこちらをじっと見ているのに気づかない。

けど、次の一言を聞いて私は嬉しくなった。


『美味しかったですよ。』


そう、ドラゴンにもこの肉はちゃんと美味しかったのだ。



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