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魔法と剣とファンタジーと  作者: 華夏オリト
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ドラゴンの家

オリジンと名乗ったドラゴンは、その家なるものを案内してくれた。

家。住処。

想像したものと違う。

オリジンの家は大きな木の中にあった。


『うぅ~わぁーー・・・』


これは、凄い、の一言だった。

家一軒を有に超える幹の中は本で溢れかえり、

薄暗い中にも所々に発光する何かが浮いている。

このドラゴンはどんだけ本が好きなのか。


『オリジン、さん。本好きなんですね。』


『ふむ、そうなのでしょうか。』


隣で首を傾げるドラゴンはなんでもないような顔をしていた。

いや、本好きでしょう。まさに。


申し訳程度にある机と椅子の他はすべて本だ。

中心にある螺旋階段の上は暗くて見えないけど、ずっと続いていた。

その途中途中に扉がいくつか見える。

その一か所の部屋へ入る。


『この部屋は君の自由に使ってどうぞ。』


案内されたそこは思いのほか明るく、暖かな日差しが入ってきていた。

木をくり抜いて作った大きめの窓があり、その先に太い幹が見える。

ちょっとしたベランダがあるみたいだ。落ちたら怪我だけじゃすまなそうだけど。


窓から顔を出すと地面がもの凄く遠かった。

上を向けばどこまでも大きく枝を伸ばす生命力の溢れた緑。

自分の体に穴を開けられてそこにドラゴンが棲みついてることをまったく感じさせないほど生き生きと太陽の光を浴びていた。


振り返ると何もなかったはずの部屋に一式の家具が揃えられていた。


『何かほかに必要なものはありました?』


『あ、いえ、あの・・・、あ、トイレ?』


『あぁ、なるほど。』


そう言ったドラゴンは指をパチンと鳴らす素振りを見せると次の瞬間には

部屋の隅にまるでもともとそこに小さな部屋があったように扉の付いたものが現れた。


日本人の記憶が言ってる気がした。

このドラゴンは魔法使いなんだ、と。


『では、』


『あの・・・!』


ドラゴンの言葉に私の言葉が重なる。

一つ聞かなくちゃいけないことがあるからだ。


『どうして、オリジンさんは私に良くしてくれる、んですか?』


今日初めてあった人にここまでよくしてくれる人はいない気がした。

人じゃないけど。

空から来たと言った私の言葉を信じて、行くところがないと悟って私をここに連れてきたのだろうか。


『・・・ふむ。』


顎にその鋭い爪の付いた手を当てるとオリジンは当たり前だといった風に言った。


『我が君を拾ったから、でしょうか。』


拾った=自分のもの。だから私をここに連れてきた。

拾ったものは責任を持って管理する、みたいな目が私を見ていた。


つまるところこのドラゴンに拾われた私という人間は

ペットか何か『なのでしょうね』・・・!



***


それでもこのドラゴンに拾われたのは私にとって幸運だったのかもしれない。

あのまま一人で森を彷徨っても生きていける気がしないし、空から落ちてきた私は知っているのだ。

この森がどんだけ広いかということを。

万が一にも出られたとしても、この森の周辺には人が住んでそうな村とか町とかが見当たらなかった。


そして現在私はというと、右手でドラゴンの出してくれた食べ物を食べつつ左手はドラゴンの手の上にあった。


『ふむ、これは面白いですね・・・では、』


と、私の隣でなにやらぶつぶつと喋っている。


そんなドラゴンのことも気にならないほど今はお腹がすいていたのだ。

ただ、せっかく用意してくれたのにもかかわらず私は言いたい。


『まずい・・・』って。



あ、言っちゃった。


私のつぶやきを聞き逃さなかったドラゴンは手から私の顔に視線を向けると考えるように言った。


『まずい、ですか。・・・ふむ、人間が作ったこの魔法は便利かと思ったのですが、やはり魔力から生み出すこれは人間にとってまずい、のですね。』


人間でなければ美味しいとでもいうのだろうか。


『オリジンさんにとっては美味しいん、ですか?』


『まずい、でしょうね。』


なんだそれ。

結局まずいのは変わらないではないか。


『我らにとって魔力は食べ物ですが、このような形で出したものにはすでに魔力は宿っていないのですよ。』


『オリジンさんは魔力というのを食べるん、ですか?』



このドラゴンの話によれば魔族(この中には様々な種族が含まれてるらしい)の基本的な食べ物は魔力というもので、人でいう食べ物らしい。

人間にも魔力はあるけど、魔力は食べ物じゃない。

他にも魔力も食べるし、人と同じように食事をする種族もいるそうな。


ドラゴン曰く『我らのようなものが何か形ある物を食べるの時があるのは

その物に魔力が宿っているからなのです』だそうだ。



『でも、今日はほとんど私と一緒にいたのに、

オリジンさんは何も食べてない気がするんですけど?』


私と会って今日1日はすでに終わろうとしている。

それなのに目の前のドラゴンが何かを食べているような素振りは見当たらなかった。


『我は数日食べずとも生きていられますよ。それに・・』


ドラゴンが私を見る。


『今日はすでに頂いています。それも・・・極上のものを、です。』


金色の中、黒い瞳孔が細められた。

思わずドラゴンの手の上にあった自分の手を引こうとするが、すぐさま相手が手を握ったことにより逃げられなくなる。


『・・・まだ、調べ終わってませんよ?』


ドラゴンの瞳がゆらりと光る。

あれ?私、本当に幸運だったのかな?

え、た、食べられたりし、ないよね・・・・?


その後、手を離された私は一目散に与えられた部屋に直行し、ベットへと潜った。


窓から覗く夜空にはきらきらと輝く星でいっぱいだった。

この世界に来て初めて迎える夜の星空はきれいだったけど、あの金色の瞳に

見張られているようで落ち着かなかった。


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