ドラゴンの考察
我の姿は人に言わせれば「ドラゴン」「竜人」だという。
名前は『オリジン・リュートニア・マナ』
現在は「魔の森」と言われる森に棲んでいる。
我らの言葉で言わせるなら『マナの森』だ。
鬱蒼と茂る巨大な樹木が育ち、そこにさまざまな種族が暮らしている。
私としては実りに溢れた豊かな森と言ってもいい。
だが、人間という下等種族はこの素晴らしき森には住めない。
人間がいう「魔」の森というだけに、ここに住まうものは皆等しく森に魔力をとられるからだ。
魔力とは我らにとって生命の源、魔法の動力源、生きるために必要なものだ。
人間がその生命を維持するために食物を食べるように我らも魔力という食料をとる。
我らは森に吸われる分、この森から魔力を得る。
それはこの森に生息する植物や魔物と呼ばれる野蛮な怪物から。
ではたとえば(我らに比べ)魔力のほとんどないような人間ではどうであるのか。
もちろん魔力はとられる。
その後、生命力という人間の源を蝕まれるのだ。
つまり魔力を自らに取り込むすべを持たない者はこの森にとってただの栄養剤のようなものであろうか。
とはいえ、我らのような魔族と呼ばれる人間ではない種族でも同じようなことはなくもない。
この森は奥へ進むにつれとられる魔力も比例して多くなるからだ。とられる以上の魔力を得ることのできない者は自然と森の隅へ追いやられる。
人間のいない森は平和だ。
己の欲のために草花を踏み荒らし、利用価値があると判断した植物や鉱石を根こそぎ持っていく。なんと卑しく浅ましい姿だろうか・・・!
いつもなら転移魔法で早々に自分の住処に戻るはずが遠い昔のことをつらつらと考えていたために普段ほとんど歩くことのない森を歩いていた。
『まったく、あの人間。懲りないの男ですね。』
こんなにも思考を沈ませる原因になった男を思い出す。
人間にしてはもったいないほどの魔力を持ち、我らに対抗し得る力を持っているであろう男の姿を、あの赤黒い髪を。
まったく折れることのない男に思わずため息をもらす。
『さてどうしたものでしょうか・・・、ん?・・あれは、人間?』
顔を上げるとこの森にいるはずもない、人間のような形をした少女がそこにはいた。
実際は見えるはずもない距離ではあるが、そもそも我らドラゴン種は目が良い者が多い。それが何キロ離れていようと見ようと思えば見えてしまうのだ。
少女は衣服を身に着けていなかったのか、昔愚かにも森に入り込み死に絶えたであろう人間の骨の上から服をとり、袖を通しているところだった。
少女は真っ白な長い髪を煩わしそうに払いながら服を着た。
近くで見れば見るほどに異様な光景だった。
草の揺れた音の為にこちらを見た少女の瞳は黒く、光の加減で虹色のような光がさしていた。髪は先の通り真っ白で、肌も透けるようだ。
年は人間でいうと14、5くらいか。
人間の美意識には無縁だと思っていた我も、この人間は美しいと感じた。
しかし驚くべきことはそこではけっしてない。
人間は魔力に関してとてもわかりやすい見た目をしている生き物だ。
魔力量が多いほどその髪はより黒く、質が良ければその瞳はより黒くなる。
そしてその逆はむろん白、なのだ。
つまり目の前の少女は魔力が普通の人間ほどにもないということになる。
それなのにこの森で立ち、こうして動いていることが最も衝撃的なことだった。
そして追い打ちをかけるように少女は口を開く。
人間だと思い人間の言葉で喋りかけた我の言葉をわからない、とこの少女はいうのだ。少女は流暢にも我ら魔族の言葉の方が普通なのだという素振りをする。
本当に人間なのだろうか。
その考えが、この少女をとても危険なものへと見えさせる。
この森でこの少女を放置してはならない、と直観した。
こうして我は名前のないという少女を『フィリ』と名付け自らのもとで監視することにしたのだった。