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和モノ(和をテーマにした作品)

努力する君がとても可愛い件について

作者: 浅葱

「豆ごはんが食べたい」


 そう婚約者に言われて私は眉を寄せた。

 豆、というとグリンピースだろうか。冷凍のグリーンピースをごはんを炊く時に入れればいいのか。

 しかしそんなもの食べたいだろうか。私は少なくとも食べたいとは思えない。


 彼は仕事だと出かけていった。

 土曜日だというのにご苦労なことだ。明日は休めるらしい。でも結婚式の準備があるから明日は一緒にホテルに行かなければならない。

 今日は義両親に会いに行く。明日は彼らの都合が悪いらしい。だから希望を聞きにいくことにしている。

 内心身構えて伺ったが、特に希望はないらしい。


「貴方たちの好きなようにしなさい。あ、もちろん予算内でね」


 義母があっけらかんと言う。結婚式の費用を一部負担していただくことになっているからあれこれ口を出されてもしかたがないと思っていたが、それほどでもなかった。

 義母の作ったお昼ご飯をいただきながら、彼が今朝言ったことを思い出した。

「豆ごはん」というのはどう考えても義母の味だろう。

 私は決して料理がうまくない。やはり彼にとっての「おふくろの味」を知っておくべきだと思う。


「そういえばお義母さん、豆ごはんってどう作られてます?」


 尋ねると義母は目を丸くした。


「今の時期ってことでいいのかしら?」


 やはり時期も関係するらしい。「はい」と答えた。


「そうね……。今ならちょうどひたし豆が手に入るからひたし豆を使った豆ごはんかしら」


 ひたし豆とはなんだろう?

 かえってハードルが上がった気がする。

 私の表情を見て、義母が微笑む。


「乾物は使わない? 便利よー」


 そう言いながら義母は台所から何やら緑色の豆の入った袋を持ってきた。

 ぱっと見、グリーンピースかと思った。


「これを一晩水につけて戻して、塩ゆでするの。12~15分ぐらいかしらね。お好みの固さで。ごはんはほうじ茶と塩、みりん、酒を入れて炊くの」

「ほうじ茶、ですか」

「茶飯って言ってね、けっこうおいしいのよ」

「はぁ……豆も一緒に炊くんですか?」

「いいえ、豆は後で混ぜるのよ。グリーンピースごはんなら一緒に炊いてもいいけど、青大豆は後から混ぜた方がおいしいわ」


 そういうものなのか。

 話の流れからひたし豆と青大豆が同じものらしいということがわかる。

 作るつもりがあるならあげると言われたのでありがたくそのひたし豆とやらをいただき、分量などを聞いて帰った。

 帰り際に、「そういえばあの子、豆大好きなのよねー。おなかの中にいる時から好きだわ」と義母が言っていたのが印象的だった。


 帰宅して豆を洗い水に浸ける。

 この時間からだと寝る前に茹でることになりそうだった。


 夕飯を作っていると彼が帰ってきた。


「今日の夕飯何?」


 台所に顔を出して聞いてくる。そしてそんな彼の目がある一点で止まった。


「お、豆じゃん。明日の朝は豆ごはん?」


 義母の言ったことは正解だったようだ。下手に自分で判断して冷凍のグリーンピースを買ってこなくてよかったと胸をなでおろす。


「お義母さんに教えていただいたの。お義母さんのおなかの中にいた時から豆が好きなんですって?」

「ああ、そうらしい」


 頭をかきながら言う彼に笑う。


「結婚しても豆ごはんが食べられるなんて幸せだな」


 でもそんなことを言うから私は絶句した。未来を示唆した科白に頬が熱くなる。


「あれ? なんか赤くない?」

「き、ききき気のせいよ!! それより早く着替えてきて!」


 不覚にもどもってしまった。


「はい、はい」


 いたずらな笑みを浮かべて奥の部屋に向かった彼が「……やっぱ可愛いな」なんて呟いていたのを、もちろん顔の赤みを取ろうと努力していた私は全く気付かなかった。



Fin.

我が家の豆ごはん(一例)


ひたし豆(50g・乾物)は軽く水洗いしてから一晩水につける。

つけた水と一緒に鍋へ。更に水を足し、塩を小さじ1ほど入れ沸騰させてからあくをとりつつ12~15分ゆでる。

固さを確認してちょうどよければざるに上げて粗熱をとる。


米2合を洗って30分ほど水につけて吸水させる。

ほうじ茶を400CCほど入れ、さましておく。

吸水させたら水を捨て、塩小さじ2分の1、酒大さじ1、みりん大さじ1、ほうじ茶を入れて(お茶は2合の目盛りまで)炊く。


ごはんが炊き上がったらよく混ぜ、食べる前に茹でておいたひたし豆をよく混ぜる。

できあがり。


和モノ布教企画でした。

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― 新着の感想 ―
[一言] お茶で炊くんですね・・・。おいしそう。
[一言] 見ているだけで美味しくなりそうなご飯ですね
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