野郎飯
腹が減った。
動画が流れるパソコン画面を眺めていると、空腹感が湧いたきた。
一度自覚すると、どれだけ空腹だったのかが身に染みて分かってきた。
腹の虫は鳴いていない。が、それを通り越して少々痛みを感じてきた。どうやら思っていた以上に自分は空腹だったらしい。
パソコンと向かい合っていた姿勢を崩し首を左右に振る。ゴキゴキと心地良い音が鳴るが、その振動は空腹を訴える胃にまで響いた。
胃が震えたことで感じていた痛みが余計に増してしまい、思わず顔を顰めた。
壁にかけている時計を見れば午後十時を過ぎている。
午後六時頃にパソコンを起動したから、単純計算で四時間も噛り付いていたらしい。
よく考えれば昼飯を食べてから水しか体に入れていない。その水分でさえ帰ってきてからコップに一杯だけだ。
このままでは流石にまずい。
「冷蔵庫に何があったかな……」
パソコンの電源を切り、腹の調子を伺いながらキッチンに入る。
腹が減っているからといっていきなり食べ物を流し込むのは流石にまずい。これまで二度の失敗を経験しているのでちゃんと対策は取らなくてはいけない。
『二度あることは三度ある』を偶発的でなく能動的にやれば、それは学習できていないのと同義なのだ。
幸い胃の痛みはまだ少ない。これならば白湯を飲んでおけば大丈夫だろう。
湯呑に魔法瓶からお湯を、水道から水を入れてゆっくりと飲む。痛みが少しずつ薄れていくのを確認して、冷蔵庫を確認することにする。
「さてさて、何が作れるか」
人参、じゃが芋、トマトが一つずつ。
玉ねぎが半分、長ネギは三分の一以下。
卵とピーマンが二つ。
消費期限切れの生うどんが一袋。
予想以上に残っているものが少なかった。
「ふむ、ご飯はどうだ」
隣に置いてある炊飯器を確認すれば、朝に残したご飯が茶碗一杯程度には残っていた。
保温機能が切れていたので固くなってしまっていたが、調理すれば食べれる範囲にはなるだろう。
それに新しく米を炊いている時間を腹が許してくれるとは思えない。
うどんは廃棄するとして、残りの材料で何を作るか考える。
「炒飯でいいか」
あまり考えず即決する。もとより作れるものは多くない。それに長々と考えて、余計に痛みが酷くなるのは面白くないのだ。
白湯を飲み干して、人参、玉ねぎ、長ネギ、卵にピーマンを取り出す。じゃが芋とトマトを冷蔵庫に残してしまうが、鮮度はまだ大丈夫だろう。
卵を二つともボウルに割り入れて解き、残っていたご飯を浸けておく。これで少しは柔らかくなる。
野菜を軽く洗った後、先ずは人参から切り始める。表面を刃で削ってからみじん切り。多少大きさにバラつきがあるが気にしない。
人参をまな板の端に寄せて次は玉ねぎ。こちらもまた適当にみじん切り。適当でいいのだ面倒くさい。
ピーマンはヘタを取って縦半分にした後適当に。
長ネギは適当に細かく。大ぶりでなければよし。
後は炒めるだけだ。
「油は……っと」
フライパンをコンロに掛けてから足下の収納棚にあるサラダ油を取り出す。中身を確認すると底に着きそうなほど減っていた。
明日は買い出しだな、などと呟きながらフライパンに熱が行き渡るのを待って油を引く。腹の調子を考慮していつもより少な目にするが焦げ付く心配はない。テフロン加工万歳。
人参を投入。色が鮮やかになるまで先に炒める。
後は野菜を全部。決して順番に入れるのが面倒になったわけではない。
全体がしんなりしてきたら一度皿に盛り、フライパンに油を満遍なく広げ直す。
卵に絡めたご飯の塊を解しながらフライパンで炒める。ご飯が少し飛び出していくが気にしない。元気の良いやつらめ。
あらかた熱が通ったら炒めた野菜を戻してかき混ぜる。また飛び出してくのがいるがやっぱり気にしない。一々気にしていたらキリがない。
味付けに砂糖、塩、醤油、胡椒を適量入れ、全体に回るように再び混ぜ振る。
「うん、こんなものかな」
味見をすればいつもの味。不味くはないが特筆するおいしさもない、普通の炒飯だ。
そこそこおいしく食べられれば良いのだ。
そのまま皿に盛り付けて出来上がり。
炒飯を持った皿とスープカップを机に置く。インスタントの中華スープが余っていたので、胃への安全策として一緒に食べることにした。
「それじゃいただきます。っと、スプーン忘れてた」
キッチンからスプーンを取ってきて、今度こそ食べ始める。
まずは中華スープ。お湯を入れたばかりなので熱さに気をつけて少量を飲みこむ。トロ味を帯びたスープがゆっくりと胃に流れ込んで体を内側から暖め始めた。
また一口飲み込んで胃の調子を確かめる。痛みが激しくなるようには感じない。これなら炒飯を食べても大丈夫だろう。
炒飯を食べる。うむ、味見したのと同じいつも通りの味だ。ちゃんと食べれる普通の炒飯。そこそこ固いご飯が残っているが許容範囲だろう。
よく噛んで、飲み込む。炒飯を何口か食べたらスープを飲み、水分で柔らかくして胃の負担を減らす。
今は大人しくしているとはいえ、油断していると隙を突いて胃がやられるかもしれない。そうならないようゆっくりと食を進める。
それほど量は多くなかったので、しばらくすればすっかり完食した。
「ごちそうさま」
食器を片付けて一息付く。
スープを一緒に食べたのが良かったのだろう、胃痛は振り返してこない。これなら痛みで目が覚めるということもないはずだ。
食べ物を入れたことで体が温まり、眠気がゆっくりと襲ってきた。このままベッドと仲良しこよしといきたいが、食事後すぐに横になると胃への負担になるのでグッと我慢。
明日の買い出しで何を買うかぼんやりと考えながら机に向かう。
築34年木造アパート1階、6畳1K道路よりの角部屋。
取り上げるほどの特徴もない男の一人暮らしは明日も続く。
物書き始めの短編でした。
本当は長編にしようとしたけど、特に続ける理由もなかったので短編で。
一人暮らししてると料理って適当になり始めますよね。