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年下って×××…  作者: 天城まと
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年下って唐突

私の朝は大体決まっていて、起きて直ぐに歯を磨く事から始まる。

洗面台の鏡で寝癖をチェックして、それからコーヒーを淹れて。

携帯のニュースを見ながら、コーヒーとパンを食べて仕事着に着替える。

戸締まりが出来たか見回って、それから家を出る。

起きてからほんの30分程度の時間で、私の支度は終了だ。

化粧なんてしない、どうせ誰も私なんか見ていないから。

「誰も…。」

ふと浮かぶのは、春君の顔。

あんなに真剣に、まじまじと見つめられたのは初めてだ。

私なんかの何処を好きになったのだろう。

春君からの告白を思い出して、恥ずかしさから顔が熱くなってしまったのだけれど。

忘れると決めた。

もうあんな風に女子高生相手に、大人だからなんて対応は出来る気がしない。

我慢するだなんて私には出来ないし、理不尽な事は大嫌いだ。

第一、私は春君の告白を受けるつもりはないのだから、彼の顔色を伺う必要もなかったはずだ。

けれど、あの軽蔑の眼差しはショックだった。

いつも笑顔で、周りも巻き込んで楽しくしてくれる彼が、あんな眼差しを向けるとは思わなかった。

「考えるの…止めよ。」

ついつい気持ちが声に出てしまう癖、昔から直らない。

アパートを出て、平日より人通りの少ない道を歩く。

土曜日は通勤の人も通学の人も少なくて、朝の静けさを感じられて好きだった。

鳥の囀ずりが耳に入って心地好い。

そうだ、これがいつもの私の一日の始まり方だ。

昨日までの日々は、何かの間違いだったのだ。

「あれ?桜華さん!」

間違い、だと思っていたのに。

十字路に差し掛かって、目の前で朝から元気な声がした。

昨日まで私の隣でしていた、春君の声。

「はよっス。」

これまた眠そうな、明君の挨拶。

目がシパシパするのは、気のせいだろうか。

朝日を浴びて、二人が一層輝いて見える。

「おはよう。」

いや、私は何を普通に挨拶しているんだ。

忘れると決めたはずだし、今日は休みではないのか。

なのに二人とも、平日と変わらず同じ時間に登校している。

「今日、土曜日だよね?」

不思議に思って問いかければ、春君はスポーツバックを見せて笑った。

「俺は、部活です。」

出会ってからまだ5日、春君の知らない一面。

何の部活をやっているんだろう。

知る必要なんてないのに、知りたいと思ってしまう。

「ほんと、よくやるよ。」

あくびをしながらボサボサの髪を直す明君が、ゆっくりと先に歩き出す。

それに続くように春君も歩き出して、視線で私を促す。

一緒に行こうと、そう言っている様で。

こんなはずじゃなかったのに、また彼は私の日常に入ってくる。

無理矢理にではなく、ごく当たり前のように自然に。

だからなのか、忘れようとしていた事自体を忘れてしまいそうで。

でも、このまま流されてはいけないと警笛が鳴る。

もう終わりにしよう、私は春君達とは違うんだ。

隣を歩くなんて、おこがましい。

言おうとするのに、喉に詰まって出ようとしない。

「咲さん、遅刻しますよー。」

立ち止まったままの私に気付いた明君が振り向いて、またあくび混じりに言う。

キラキラと輝いた茶髪と、右耳の二つのリング型のピアス。

少し肌寒く感じる五月上旬の風を受けて、それらがきれいに揺れていた。

どうして二人は、私に優しいのだろう。

どう見たって、私なんかより何倍も可愛い女子にモテているだろうに。

憐れんでいるのだろうか。

考えれば考えるほど、思考はネガティブになっていくばかり。

「ね、桜華さんは明日休み?」

どうして、なんて考えている事なんて知らない春君は、鞄から一枚の紙を取り出して聞いてきた。

「明が男二人じゃ行かないって言うんで、桜華さんも休みなら一緒に行きませんか?」

差し出されたのは、今上映中の犬と飼い主の感動物の映画のチラシ。

チラシと春君を交互に見て、目を見開く。

「え、私が一緒に!?」

何かの聞き間違いだろうか。

休みの日に、一緒に映画を観に行こうと誘っている。

そんなはずはない。

嘘だと思いたいけれど、目の前の春君の顔が少し紅く見える。

どういう事か分からなくて明君を見るけれど、明君は未だに眠そうにあくびをしながら目を擦っていて。

脳内パニックを通り越して、もう爆発してしまいそうだ。

「明日、駅前に10時。待ってます。」

放心状態の私を置き去りに、春君はそう言うとにっこり笑った。

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